徐々に進む膝の破壊と変形

ひざの痛みの正体〜関節の老化と炎症の発生
1.ひざの痛みの原因は?
ひざの痛みは様々な原因によって生じますが、痛みの元が「ひざ関節内に起きる炎症」であるという点ではほぼ共通しています。
◆炎症が起こるメカニズム
膝の使いすぎや加齢による関節組織の老化、膝の病気やケガなどによって、関節軟骨は徐々にはがれたり削り落ちてゆき、その細かい削りカスは関節内を漂いながら関節包の内側にある「滑膜」という組織を刺激します。
すると体内から異物を排除しようとする免疫(めんえき)作用によって、滑膜から刺激物質分解酵素や白血球、リンパ球を含む「関節液」を普段より多く分泌します。
こうした刺激物質と膝の組織が闘っている状態が「炎症」です。
炎症は痛みのほか、患部の「腫れ」や「熱」をともないます。これはひざの中で刺激物質を排除しようとする炎症が起きているサインです。
◆なぜ痛むのか?
関節液には「サイトカイン」という物質が含まれます。サイトカインは痛みのもととなる炎症を強める作用があるだけでなく、この物質の刺激によって周辺組織が緊張して血行不良が起き、関節の痛みが大きくなったり治りにくくなります。
また、サイトカインの刺激によって関節液の分泌機能のバランスが崩れると、滑膜組織が異常増殖して腫れあがり、関節リウマチになったり、ひざに水(関節液)がたまる関節水症がおこります。
2.徐々に進行するひざ関節の痛み
膝の関節は、加齢による老化、体重による負荷、外部からの衝撃などが蓄積し、年齢を重ねるごとに徐々に傷んでいきます。このように自然な老化現象の一つとして起こる膝の障害を「変形性膝関節症」といいます。
膝関節の破壊と変形が進行していく過程は、関節内組織の損傷の度合いや、発生する症状の内容によって、大きく4つの段階に分けて見ることができます。
それぞれの段階ごとに、膝の状態、見られる症状、治療法などを見ていきます。
※スポーツや事故で起こる突発的な膝障害については「膝のスポーツ外傷」を参照してください。
◆膝の破壊と変形 「第1段階」
<関節の状態>
- 日常生活やスポーツによって筋肉・腱・靭帯・関節包などの組織に負担がかかり、主に膝の使いすぎによって痛みが発生する
- 関節軟骨は十分に厚みがあり、すり減りは見られない状態
- 運動時などに見られる関節まわりの腱や筋の痛みがほとんど
- 膝の動かし始めに痛みが見られることが多く、休むと痛みが治まる
<治療法>
- 柔軟体操、ストレッチングが効果的。膝にかかる負担を軽減できる
【参考】
◆膝の破壊と変形−初期 「第2段階」
<関節の状態>
- 軟骨の水分が減り、ツヤが失われ茶色がかってくる。膝の動きにともなって、関節軟骨がこすれ合い、表面が毛羽立ってくる
- すり減った関節軟骨の破片が関節包の内側の「滑膜」を刺激して、関節包に炎症を起こす。これにより滑膜から関節液が異常に分泌され関節内にたまる。いわゆる「水がたまる」状態(関節水症)
- まだひざの病気が原因だとは考えないことが多い
<主な症状>
- 膝が腫れたり、熱を持つ
- 膝を動かしたときや大きな負荷がかかる時に痛む。急性の炎症による激しい痛みを感じることもある
- 関節にこわばりが見られ、膝のひっかかりや動かしづらさを感じる
<治療法>
- 軽度の痛みなら湿布などを使えば治まる。または数日で自然に治まる
- 関節内に水(関節液)がたまっていれば注射器で抜き、炎症を抑える薬を使う
【参考】
◆膝の破壊と変形−中期 「第3段階」
<関節の状態>
- 関節軟骨がすり減っては変形し、更にすり減るという繰り返しになる。すり減った関節軟骨がトゲのようになったり、はがれ落ちて骨が露出する。そして関節軟骨がすり減った分だけ関節のすき間が狭くなる
- 軟骨のカスの刺激により膝に水が多くたまるようになり、炎症が何度も起こる
- 関節包や筋肉などの組織が固くなる
- 多くの人が膝の異常を自覚するようになる
<主な症状>
痛みがすぐには治まらなくなり、動きも不自由になってくる。
- 痛み、腫れ、熱感
慢性の炎症によって色々な部位に痛みが起こり、痛みがとれるまで時間がかかるようになる。膝の前面から裏面にかけて、見た目に分かるほどはれて熱をもつようになる - 拘縮(こうしゅく)
膝の曲げ伸ばしをしきれない状態「拘縮」が現れる。関節のこわばりがいっそう強くなり、正座ができなくなったり、しゃがんだり階段を使うのがつらくなる - 足の変形
関節軟骨がかなりすり減ってくるため足の変形が進み、形が悪くなったと自覚できるほどになる。O脚(ガニ股)の度合いも強くなる - 膝を動かすと音がすることがある
<治療法>
- 炎症と痛みを抑える薬を服用する(薬物療法)
- ストレッチングで膝の負担を軽くする(運動療法)
- 症状によっては手術が検討される(手術療法)
◆膝の破壊と変形−後期 「第4段階」
<関節の状態>
- 関節軟骨がすり減って完全に無くなり、骨と骨とが直に接するようになる。骨同士がこすれあってすり減り、骨の表面にトゲのようなでっぱり(骨棘(こっきょく))ができたり、関節の上下の骨の表面がかみあわずズレてきたりする
- すり減る軟骨が存在しないため、ひざに水がたまることはほとんどなくなる
<主な症状>
痛み・動き・変形の悪化によって社会生活が著しく制限される。外出もままならなくなり、精神的にも落ち込みがちになる。また、運動量が減ることで肥満が進む。
- 痛み
クッションの役割をしていた軟骨がなくなり、骨同士がぶつかって少し歩くだけでも非常に強く痛む。わずかな動きでもじっとしていても痛みがあるため、日常生活もままならない状態になる - 拘縮(こうしゅく)
関節が硬くなり、膝の曲げ伸ばしがとても難しくなる。痛みも加わり体をほとんど動かせない状態になる。太ももの筋肉も著しく落ちてしまっている - 足の変形
骨の表面がガタガタできちんとかみ合わないため、他人から見ても明らかに足の形が悪いとわかるほどO脚(ガニ股)の変形が進む
<治療法>
- 手術を受ける人が多くなる