外科手術によるひざの治療法
手術療法の詳細
薬の投与、膝の運動、装具による保護などの体を切開しない治療法では症状が改善されなかったり、日常生活に支障をきたしていたり、大きな怪我やガンなど緊急の治療を要するケースにおいては手術による治療が検討されます。
膝の手術は内視鏡を使って異物を取り除く簡易なものから、骨の一部を切除したり、関節を人工物と取り替えるものなどがあり、具体的な症状や患部の状態を考慮し、状況に合った手術法を選択します。手術を行うかどうかの最終判断は、患者と医師とで十分に相談して合意の上で行われます。
<目 次>
1.一覧表「主な手術の種類と特徴比較」
手術名 | 関節鏡下郭清術 | 人工関節置換術 | 高位脛骨骨切り術 |
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どんな方法か | 関節鏡と呼ばれる内視鏡を使って、すり減った関節軟骨や欠けた半月板などの欠片・カスを取り除き、症状を改善する | 痛みの原因となっている、変形・破壊の進んだ関節軟骨や骨の一部を取り除き、金属やポリエチレン製の人工的な関節と取り替える | 脛骨(すねの骨)の一部を切り取って、骨の向きを変える→痛みの原因となっているO脚が矯正される |
適用されるケース | ・変形性膝関節症(初期) ・半月板損傷 ・タナ障害 ・関節ねずみ(関節内遊離体)が発生する病気や障害 など |
重度の変形性膝関節症など、ひざ関節の変形・破壊が進み、他の治療法や手術では症状が改善されない場合 | O脚の度合いが強く、関節軟骨の内側がすり減って変形性膝関節症を発症しているケースなど |
身体的負担 | 軽め | やや重め | 重め |
手術時間 | 40〜60分 | 1〜2時間 | 1〜2時間 |
入院期間 | 1〜7日 | 1ヶ月前後 | 1〜2ヶ月 |
日常生活に戻るまでの期間 | 7〜10日 | 手術後1ヶ月程度 | 退院後2〜4ヶ月 |
長所・ メリット |
・身体にあまり負担がかからず、膝を大きく切開しないで済む ・手術後すぐに効果が表れる ・手術時間や入院期間が短い |
・完治が期待できる(痛みなどの症状が完全になくなる) ・リハビリテーションの期間が比較的短い |
・治療効果が大きい |
短所・ デメリット |
・十分な効果が得られない場合もある ・完治は難しい(再発の可能性がある) |
・人工関節に寿命がある ・膝を動かせる範囲が限られる |
・リハビリテーションに時間がかかる ・骨の切断面がきれいにつかないことがある |
2.関節鏡視下郭清術について
関節鏡視下郭清術(かんせつきょうしかかくせいじゅつ)は、関節鏡視下手術や関節鏡手術とも呼ばれ、関節内部を観察するための内視鏡(関節鏡)※を用いる手術です。
膝に数カ所の小さな穴を開け、そこから細い関節鏡や手術器具を挿入し、モニターを通して関節鏡の映像を見ながら手術を行います。
※「内視鏡」:
細長い管の先端にライト付きの小型カメラを内臓した医療器具。先端を体内に挿入することによって内部の映像を手元のモニターで見ることができる。カプセル型のものもある。
すり減った軟骨のカスや欠けた半月板のカケラを取り除いたり、ザラザラになった軟骨の表面を削って滑らかにしたり、骨が変形してトゲのように出っ張った部分(骨棘(こっきょく))を切除したりと、内容が簡易な手術に適用されます。
そのためこの手術法の対象となるのは、骨の破壊や変形の度合いがそれほど強くない、症状が比較的初期の患者になります。
膝関節内をきれい掃除するような手術で、炎症などの痛みの根本的な原因を取りのぞくものではありません。よって一時的に症状は改善されますが、根本的な治療が施されない限り、再び炎症が起きて痛みが再発する可能性があります。その場合は再手術が必要になります。
- 体にあまり負担がかからず、膝を大きく切開しないで済む
- 手術後すぐに効果が表れ、手術時間や入院期間も短い
- 十分な効果が得られない場合もある
- 完治は難しい(再発の可能性がある)
3.人工関節置換術について
人工関節置換術(じんこうかんせつちかんじゅつ)は、関節を「人工的に作られた関節」に置き換える手術です。
変形性膝関節症が進行して軟骨の摩耗や変形がひどい場合に行われることが多く、以下の順序で手術が進行します。
- 膝関節のすり減った軟骨を全て削り取る
- 軟骨がなくなった大腿骨と脛骨(膝の上下の骨)の骨の端も人工関節の形に合わせて一部切除する
- 骨を切除した部分をチタンなどの金属で覆う
- 更にその間に軟骨の代わりのクッションとなるポリエチレンを挿入する
関節組織の傷み具合や損傷箇所によって、膝関節の一部だけを置き換える方法と、膝関節全体を置き換える方法があります。
人工関節置換術を行うと、軟骨がすり減ることもなくなり炎症も治まるため、基本的に痛みは完全になくなり完治が期待できるという大きなメリットがあります。反面、人工関節には耐用年数があり、問題なく使えるのが10〜15年であること、人工関節の動く範囲に制限があり、膝が直角90度までしか曲げられず正座などができないといった短所があります。
こうした短所があるため、スポーツなど活発な活動をあまりしない70歳〜くらいの高齢者に適した治療法といえます。
- 痛みなどの症状が完全になくなり完治する
- リハビリテーションの期間が比較的短い
- 人工関節に寿命がある
- 膝を動かせる範囲が限られる
4.高位脛骨骨切り術について
高位脛骨骨切り術(こういけいこつほねきりじゅつ)は、脛骨と腓骨の一部を切り取ることで骨の向きを変え、足をまっすぐに矯正する手術です。必要に応じて人工骨や体の別の部位からとった骨も付け足し、金属製のプレートで固定します。
膝が外側にふくらんだような外見の「O脚(ガニ股)」は、日本人に多く見られます。この状態では膝の内側に重心がかたよって負担が大きくなるため軟骨の内側がすり減り、更にO脚がひどくなるという悪循環に陥ります。
O脚が逆にX脚(内股)気味に矯正されるよう骨を一部切除することで、体重が均等にかかるようになります。手術によってO脚が解消されれば、膝の負担が均等になり、軟骨の変形や痛みも解消されます。手術で切除した骨の断面がきれいにくっつけば効果は一生続き、O脚はほぼ完治します。まれに骨がきれいにつかなかったり、足の指に軽いしびれが残ることもあります。
手術後は切除した骨がつくまで入院して安静を保ち、くっついた後も長いリハビリテーションを行い骨を強化する必要があるため、普通の生活に戻るまでには半年前後の期間がかかります。1年程度経過したらプレートを取り出す手術を行います。
膝の変形の度合いが軽度〜中程度の場合や、関節軟骨の劣化があまり進んでいない若い人(60代くらいまで)向きの手術法で、体力や筋力の弱った高齢者には適しません。
- 治療効果が大きい
- 関節をそのまま残すので、術後にひざを動かす感覚や痛みを感じる感覚が保たれる
- リハビリテーションに時間がかかる
- 骨の切断面がきれいにつかないことがある
- 膝の動く範囲を広げる効果はあまり改善できない
5.その他の手術法について
◆半月板切除術・半月板縫合術
半月板は膝関節を安定させたりクッションの役割を果たしますが、スポーツ時の激しい衝撃などで損傷した場合、クッションがなくなったことで痛みが出てきたり、切れた半月板が関節の間に挟まって足の曲げ伸ばしができなくなるなどの症状が現れます(半月板損傷)。
こうした場合、破損した半月板を縫合または一部切除したり、剥がれた半月板を取り除く手術が行われます。
軽度の場合は、内視鏡を使った関節鏡視下郭清術がよく行われます。それでは摘出が困難なケースでは膝を大きく切開して手術を行います。
◆再建手術
<靭帯の再建手術>
靭帯が損傷して、靭帯が完全に切れる「靭帯断裂」が起きた場合、膝周辺の腱(けん)を切り取って靭帯の代わりにする再建手術が行われます。これは靭帯は一度切れると自然に再生することがないためです。
<膝蓋骨(しつがいこつ)の再建手術>
膝蓋骨(ひざの皿)は通常よほど大きな衝撃が加わらない限り脱臼することはありませんが、小さな衝撃でも脱臼しやすくなる病状を膝蓋骨不安定症といい、ひざ関節の動きが不安定になり痛みも出ます。何度も脱臼を繰り返す場合には、内側膝蓋大腿靭帯を再建することで膝蓋骨を支えて脱臼しないようにする方法があります。
◆関節固定術
関節の軟骨部分を全て削り取ってしまい、骨と骨とを接触させた状態で、ネジやプレートで固定する手術です。
痛みがなくなる代わりに、固定した状態から関節を全く動かすことができなくなるため、固定する位置が重要になります。ひざ関節の場合だと、ひざを伸ばした状態で固定します。
関節の破壊・変形がひどい場合に行われる手術法で、特に手首、手足、手指など、固定しても日常生活にあまり支障のない関節に行ったり、活発に動き回ることのない高齢者などに適用されてきました。現在では人工関節置換術など他の手術法が発達したため、適用されるケースは少なくなっています。
◆股関節周辺の骨切り手術
膝の痛みが見られる疾患には、変形性股関節症やペルテス病など、股関節の変形を伴うものもあります。これらの治療においては、股関節を構成する骨の一部を切除する手術を行います。骨や関節の形を変えることで、骨を正常な位置に戻したり、関節の動きを良くすることができます。
6.手術後の生活・リハビリについて
◆膝が落ち着くまでは無理な運動はせず専門のリハビリをうける
手術後の膝は不安定な状態になっているため、膝に負担のかかる動作をしないことが必要です。
たとえ体に負担の少ない手術でも、膝の状態が落ち着くまでは無理に動かしてはいけません。膝の状態が落ち着いてきたら、専門家の指導を受けながら、無理なくできる範囲でリハビリテーションを行います。
◆膝を支える力を強くして徐々に活動レベルを上げてい
手術を受けた後はじっとしているだけでは膝関節が十分に動くようにはなりません。安静にしすぎると膝の筋肉は細く弱くなり、関節の動きも悪くなっていきます。
手術後のリハビリテーションは、膝の周囲の筋力を高め、膝関節の動きを改善させるためにとても大切です。膝関節の動きが良くなり筋力もついてきたら、徐々に日常生活の活動レベルを上げていきます。ただし、膝の手術の目的はあくまで痛みの軽減と、日常生活に必要な機能を改善させることです。膝を若返らせて若い頃と同じ状態に戻すことはできません。無理をすると再び膝の状態が悪化してしまいます。過度に膝に負担をかけないよう注意しながら、快適な日常生活を送るようにしましょう。
◆手術後のリハビリのおおまかな流れ
膝の負担の少ない簡単な動作から始めて、徐々に歩行に移っていきます。
- 足首を動かしたり、足を持ち上げて太もも前面の筋肉「大腿四頭筋」を鍛えるなど、リハビリ器具を利用してベッド上でできる訓練をする。膝の曲げ伸ばしは徐々に進める
- 立ち上がったり、車いすを利用して移動したり、松葉杖を使って歩いたりする
- 歩行棒や歩行器を使って歩く、階段の上り降りをするなどの「歩行訓練」を始める
◆手術後に避けるべきこと
- 体重の増加や重い物の持ち運び
- 必要以上の歩行や階段の上り下り
- 激しいスポーツ
- まったく動かない生活